恋文の技術(森見登美彦著 ポプラ文庫)を読んで

この小説を読む前は普通の小説のような感じだと思っていました。しかし、読んでみるとわかるのですが、この小説は物語の進め方が文通形式なのです。具体的にいうと、まず主人公が相手の登場人物に手紙を送る。そして、その相手からの手紙(小説上には書かれていない)を主人公が読み、またその返事の手紙を書くといった感じです。この小説では、第11章以外はすべて主人公が書いた手紙で構成されています。だから読者は、主人公がそれぞれの相手に送る文面の内容からその相手がどのような人物かを想像するのです。第11章までは先ほども言ったように主人公が書いた手紙だけで構成されています。だから私は、無意識のうちにこの主人公はこのような人物だ、と固定化してしまいました。しかし、この11章ではついに今まで主人公が手紙を送った相手たちの手紙で構成されています。ここでは、第10章までに私がステレオタイプ化してしまった主人公の違った一面を見せてくれました。今までこう思っていたけれどこのような一面もあるんだな、などというようなことを思いました。また、この小説には森見登美彦さん自身も登場します。とてもうまく物語の登場人物と交わっているなと思いました。あと、あとがきもとてもおもしろかったです。もちろん本編も面白かったのですが私自身一番笑ったのはあとがきでした。何が面白かったかのかは数学好きの方ならわかるはずです。

以上 恋文の技術を読んで でした。